昨日、大学の先輩とトラブった。
その先輩は同じ部活な訳で接触も多いのだが、前からあんまり好きじゃなかった。
いつでも横柄な態度が気に障ったし、練習でうまくいかないと、
よく後輩にそのいらだちをぶつけている様だった。
俺は特にその先輩に気に入られてなかったみたいで、
他の部員よりもひどい言葉を、重ね重ね言われていた。
俺にしては奇跡とも思えるくらいの我慢を今までしてきたのだが、
とうとう昨日、ぶちぎれた。
気がつくと、他の部員が俺達をとりおさえていた。
それから俺は監督の説教も無視してそこをとびだして、あれから部活には行っていない。
厳密に言えば、大学も勝手に休んでいる。
そのせいでする事がなくて、あてもなくぶらぶらしている所だった。
3年間通いなれた高校の隣の道を歩く。
あぁ懐かしいな。変わってねぇな。変わる訳ねぇか。
1年通ってないだけなのに、もうあの日々が遠い昔の様に思える。
色々あったけど、どれも自分には欠かせない出来事ばかりだった。今思うと。
喧嘩した事もバスケやめた事もまたバスケした事も。
どれも自分にとってはなくてはならない事だったんだと思う。
ふと感傷に浸りそうになっていた時、後ろから声をかけられた。
「三井さん?」
そちらを振り返ると、そこには自転車にまたがった宮城が、目を丸くしてこちらを見ていた。
「やっぱしそうだ!何やってんすかんな所で」
何やってんすかと言われても、何もしていなかった俺は
「ぶらぶらしてただけだよ」と答えるしかなかった。
「へぇ…って大学は!?あれ、今日はないんすか?休みだし」
「いやあるけどな。さぼってる」
「だめじゃないすか!ったく相変わらずだなー三井さん。単位とれなくなりますよ?」
「おめーに言われなくてもわかってるよ!」
それから俺達は、そこで立ち話を続けた。
宮城との馬鹿な会話は本当に久しぶりで、
俺は自分がこいつとの会話を楽しんでいる事に気が付いた。
ひとしきり笑った後、宮城は自転車のブレーキを握り締めながら聞いてきた。
「どうっすか、大学のバスケは」
「ん?あー、昨日先輩なぐっちまった」
こともなげにあっさりと言う。
「は?!マジですか!?」
「マジだよ。こんな嘘つくかよ」
俺はその先輩の事を宮城に説明した。
どんな事を言われてきたとか、こんなファウルをされたとか。
宮城はどんどん心底嫌そうな顔になっていった。
「ぅわー…相当だなそいつ。俺でもなぐっちゃいそう」
「だろ?普通そうだよなー。俺もうそれから部活行ってねんだよ。腹立って」
そこで宮城はなぜか沈黙になった。
どこか1点をぼーっと見て、何か考えている様だった。
俺がどうしたのか聞こうとした時、宮城が物思いにふけっていた様な声で言った。
「…んでも、俺だったら多分、謝るだろうなぁ」
宮城の言葉が意外すぎて、最初俺はその言葉の意味がよくわからなかった。
「は?お前が?」
「うん」
「なんで?」
「だって、三井さんそのまま部活出てないんでしょ?」
「あぁ」
「次部活出たとしても、そんな喧嘩した先輩と同じ部活にいるのって、
普通に考えて居心地悪くなるじゃないすか。
んでだんだん部活に出たくないと思っちゃうでしょ、気まずいから」
「……」
「そのままだと皆に追いつけなくなるし、やめさせられる事になっちゃうだろうし、
そんな先輩一人の為に自分がそうなるのって、悔しいじゃないすか。
そんなやつの為に、自分の大学生活つまんない物にしていくのって」
「…そうだなぁ」
「すげーむかつくのわかるし、先輩にしてはよく我慢したと思いますよ。
だから謝ってけじめつけて、
んなのきにしねーでまた部活続けるのが、強い人だと思う、俺は」
先輩にしては、って所でつっこみそうになったが、
自分の意見を述べる宮城を見ていて、俺は自分が恥ずかしくなった。
本当は、そんな事には気がついていた。どこかでわかっていた。
けれどそんなの俺には無理だと決め付けて、気がついていたのに無視していた。
俺はあのときから、何も進歩していなかったんだと気がついた。
「って何か俺すげー偉そうだけど」
そうつけたした宮城に俺は、
「いや、お前の意見聞いてよかったわ。そうするよ」
今度は宮城が意外そうな目でこちらを見た。
「三井さんがすげー素直になってる。気持ちわり〜」
「あぁ?!人が真面目にいってんのに!」
宮城は「うそ、うそっすよ」と笑いながら言った。説得力がない。
「でもそうした方が絶対いいっすよ。俺マジで三井さんにはバスケ頑張ってもらいたいし」
「…お前も良い事言うようになったな」
「元からっすよ!」
宮城にここで会ってこの話をしてよかったと思った。
後輩に教えられたっていうのはちょっと腑に落ちないが、
自分の為になったのは確かだし、俺は今からでも大学に行こうかと思った。
そんな事を考えている時宮城は左手の腕時計を見て、
「もうすぐかな」と呟いた。
それについて聞こうとした俺の言葉を、宮城の声がさえぎった。
「いやでも三井さん、今日は大学休んじゃってもいいっすよ」
………
「は?!」
「今日はそういう日にしてもいいっすよ。今日だけ」
何いってんだこいつ。
「言ってる意味がよくわかんねーんだけど」
さっきもの凄い良い事言ったくせに、
次の瞬間には180度違う意見を出した宮城がよくわからない俺は、不信そうな声でいった。
「だーかーらー今日は大学も部活も休んで俺達に付き合えつってんすよ!俺が許す!」
「何でてめぇに許されなきゃなんねんだよ!大体俺達って誰だよ!?」
「ほら後ろ」
宮城に指差された方を振り返ると、
今来たばかりといった感じの桜木と彩子が、目を丸くしてこちらを見ていた。
「ミッチー?!何でもういるんだ?!」
「三井さん大学は?!」
俺は俺で、まったくこの展開に追いつけずに、
宮城とその2人を交互に見る事しかできなかった。
この場ただ1人、事情を全部知っているその男は、
地面を蹴って、自転車を発進させた。
「さー、じゃ三井さんにプレゼント選んでもらうかぁ!」
まだ呆然としている俺を振り返って、
宮城は俺に向けて指を指しながらこう言った。
「だって今日、誕生日でしょ?」