「そしたらね、彩子さんがすぱーんって、
桜木君と流川君の頭はりせんで叩いちゃってね!」
「うんうん」
「もう見慣れちゃったんだけど、何度見てもあの迫力は凄いのよね」
「へぇ〜」
「流川君の頭はりたおせるのって、この学校で彩子さんだけよね、絶対」
「そうねぇ、多分ねぇ」         
ぽかぽかと丁度良い暖かさの日差しがさしこむ窓際の席で、
晴子はさっきからバスケ部の話に花を咲かせている。
一つの話に、3回は流川君という言葉が出てくるのが可笑しい。
バスケ部の話をしている時の晴子は、いつも幸せそうだ。
時々ひどく落ち込んで自己嫌悪に陥ったりする時もあるけれど、大体は楽しそうに見える。
晴子の性格に、マネージャーはぴったりなんだと思う。
それに、大好きな人と当たり前の様に一緒にいる時間が持てるんだから、
今までならなかった事がおかしいくらいじゃないだろうか。
「私ね、ずっと思ってたんだけど、やっぱり桜木君がいるといないじゃ全然違うのよ」
「明るくなるって事?」
「そう。本当にムードメイカーなのよ桜木君は」
「あの人うるさいもんねぇ」
「そのうるささが部活の雰囲気を明るくしてくれてるっていうか…良いうるささなのよね」
「何よ、それ」
晴子の表現に笑うと、晴子もつられて笑った。
晴子はまだ、桜木君の気持ちに気づいてない様だ。
私だって桜木君から直接聞いた訳じゃないけど、
桜木君を見てれば大体の人はわかると思う。
この子のこの鈍感さには本当に頭が下がるけど、教えてあげるのもなぁ、と思って、
私はただ黙って晴子の話を聞いている。
あの桜木君の火付け役が晴子なんだから、この子は意外に凄い。
桜木君にとって、凄い影響力を持ってる子なのだ、晴子は。
誰かたった一人にでもそう思われるっていう事は、凄く幸せな事だと思う。
それに本人が気づいてない場合は、幸せといえるかどうかわからないけれど。

「それにしても、彩子さんて格好良いよね」
「?何よいきなり?」
「何かあたし、同じマネージャーとして一緒にいて、よく思うようになったのよ」
「うん確かに綺麗だしねぇ、宮城さんが好きになるのわかる」
「流川君にも気さくに話しかけられて凄いよねぇ…。さばさばしてるし」
「女の憧れよね」
流川君に話しかけられる、とい事を一番言いたかったんだろう、
と私が予想していると、晴子はほぼ無意識の様な声でこんな事を言った。
「いいなぁ、彩子さんが羨ましいなぁ」
「…うん」
私はとりあえず相槌を打ったけれど、
ある溶液にある溶液を混ぜると色がぱっと変わる様に、
晴子のその一言で、自分の抱く感情に何らかの変化が生じたことを感じた。
それは、ただの強い共感や嫌悪とは違うものの様に思えた。
「松井ちゃん遅いなぁ、購買そんなに混んでるのかしら」
「あ、ちょっと見てこようかあたし。晴子まってなよ」
「いいよ、あたしも行くよ、…あっ!」
晴子が甲高い声をあげて廊下に駆け寄る。
あたしもそちらの方を見て、その原因がすぐわかった。
「桜木君!」
少しだけ髪がのびた桜木君は相変わらず身長が大きく、
晴子と並ぶと親子みたいな身長差だ。
それでも桜木君の方は、ただ見下ろすんじゃなくて
身をかがめる様な動作もつけくわえている。
「今日の練習なんだけどね…」
晴子の高い声は、少しだけ離れたあたしの耳にもよく聞こえた。
桜木君は、いつもと同じ、少しあからめた顔で晴子の話を嬉しそうに聞いている。

晴子には、桜木君と同じ、部活という共通の世界がある。
彩子さんや流川君もいる、共通の世界が。
 
        
「あ藤井ちゃーん、松井ちゃんきたよー!」



あたしは晴子が、ちょっとだけ羨ましいけど。

 


 

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