早すぎる夏が終わった。
去年の夏は、全国にのし上がってきた強豪チームとたたかっていたのに。
今年はコートではなく、変わらない景色の中を、ぐるぐると走ってばかりいる。

予想外の事ばかりしでかす相手チームに、
おれたちは上手いこと翻弄された。
相手を下に見ていた事は確かだけれど、
油断や慢心なんて絶対にしなかったのに。

吹き出る汗をぬぐいもせず、走りながらいつもこんな事を考えた。
だが、後悔なんかしていない。
まだ冬があるじゃないか。
反省は次への糧が生まれるかもしれないけれど、
後悔は自分を責めて責めてそれで終わりだ。
何の意味ももたない。
ただ、最後の夏なのに、
最後の夏だったのに、
と、どんなにふりほどいでも湧き出る言葉が、
常に心臓に重たい鎖を巻いてるかの様だった。
後悔ではない。

「藤真」
初戦で負けたからって落ち込んでられるか。
「藤真」
おれらしくもねぇ。
「藤真」
夏で全てが終わる訳でもないだろう。
「藤真」
後悔なんかしてない。
「藤真」
「なんだ」
振り返って見あげた花形の顔は、うっすらとぼやけて見えた。
「休めよ。吐くぞ」
「そしたら吐きゃいいだろ」
「無理して走っても何にもなんないぞ」
「疲れて休んでも何にもなんねぇよ」

一度も一番になれなかった。
期待を背負って皆をまとめ、コートの中でも皆をまとめ。
どれだけ頑張っても、牧の上は行けなかった。
今年の夏、あの赤い髪のヤツでさえも、超えた気がしなかった。

「ほら」
斜め上からペットボトルに入った緑茶が差し出された。
サンキューという言葉も切れる息にかき消されて、
おれは無言で、花形からそれを受け取った。
夏は終わったのにまだ鳴き続ける蝉の声が、うるさかった。
口から吸い込まれる息が喉を走る。
「何周目だっけ」
「数えんのもめんどくさくなるぐらい、お前走ってたよ」
「お前ははしんねーのか」
「ドクターストップかかったつっただろ」
花形は右足を掲げて、膝にある白い網を見せてみた。
あぁそういえばそうだったっけ、とおれはチラリとそれを見る。
「だったら中でハンドリングでもやってろよ」
「だってお前、おれがいないと何周走ったかわかったもんじゃないし」
校庭で走る野球部員がふと視界に右端に写る。
花形はそう言って、しゃがむ事をやめて腰をおろした。
ふん、とおれは遠くを睨みつける。
少しだけ間をおいて、ふと花形が口を開いた。

「桜木さぁ」
「あぁ」
「リハビリ頑張ってんだってな」
「…ふーん」
ふと、コートの中でいやにうるさかったその男の顔を思い浮かべる。
「あいつ初心者だったのになぁ」
「………」
「おれたちも頑張って、冬は勝たねーとな」

言って花形は立ち上がった。
何をするのかと思ったら、そのまま校庭に向かって走り出す。
どうやら、マラソンを始める様だった。
「おい、ドクターストップは?」
そう叫ぶと、花形は片手をあげてみせるだけだった。
結局走るのかよあいつ。
その背中を少し睨んで、また緑茶を飲む。
そして、なぜだか花形の言葉に励まされた自分がいる事に、気が付いた。

 

一度も一番になれなかった。
期待を背負って皆をまとめ、コートの中でも皆をまとめ。
どれだけ頑張っても、牧の上は行けなかった。
今年の夏、あの赤い髪のヤツでさえも、超えた気がしなかった。
でも、まだチャンスがあった。
同じところを目指す仲間もいた。
夏は終わったけど、
と、おれも立ち上がる。

また走り出した体は、おれの気力においついてきてる様に思えた。
遠くで走る男を抜いてやろうと、つい足に力が入る。
そして、自分はまだ終わっちゃいない、と思った。

 


 

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