家のドアを開けて、黒いバッグを肩に下げる。
夏の日差しは思っていたよりも、強く、暑く、鋭かった。
母親からあんまりやり過ぎるんじゃないわよ、と忠告された。
バスケをしている時の自分の状態を分かっているらしい。
公園の時計で一応確認しておくか、
と流川は自転車の鍵を前輪のそこにはめた。
カシャンという音がしてはまった感覚を手に覚えてから、
ハンドルを握り、門を出るまで手で押した。
そこで右手に持っていたサポーターを左手のいつもの所につけて、
サドルに腰を乗せる。
ペダルをぐっぐっと力を込めて踏んでいくと、
その重さは回を重ねるごとに少なくなっていった。
風を切る音が聞こえる。
こんな所に似つかわしくない小さな林の様な場所を横切ると、
そこからは蝉の大合唱がこれでもかと言わんばかりに聞こえてきた。
そこを通り過ぎるまで、その大合唱は耳にこびりつき離れなかった。
やがて小さくなっていき、そして空気に溶けるかの様に消える。
これを聞くたびに、夏、真夏なんだ、という事を思い知らされる。
汗が顎まで流れてきて、左手でそれを乱暴にぬぐった。
タオルはバッグに入っているが、
取り出す事がめんどくさかったのでそのままにしておいた。
真上の太陽は、相変わらず熱と光を放射している。
短くはあるが、一つだけ、急で疲れる坂があった。
登竜門というと大袈裟だが、流川としてはそんな感じだった。
その先にそこがあるのだ。
自転車から降りてハンドルを押せばそれ程疲れもしないだろうが、
それはスポーツをしている自分にとってのプライドに障るものだった。
流川は大きく息を吸い込み、
汗がたれてきた前髪をかきあげてから、身を乗り出した。
こうするとこぎやすくなる気がする。
先程より幾分重たくなったペダルを、力を込めてぐぐっと押す。
体を前かがみにさせて、灰色のアスファルトを睨みつけた。
吐く吐息さえも熱く感じて、
先程通り過ぎた自販機で何か買えば良かった、と後悔した。
『止まれ』という看板の横をすり抜けて、
終わりが近づいている事を知る。
坂を登り始める時と同じように、
流川は残りわずかとなった坂を見つめて息を吸い込んだ。
汗が滲んだ足に渾身の力を込める。
目に見えたものは数十メートル先の公園。
赤いリングと白いネット、ゴールの前へと立つ為に、
流川は自転車のスピードをあげた。
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