流川は揺れるバスの中を、重たい瞼を一心に開きながら乗っていた。
今の季節には少々暑い光が窓から差し込み、 反対側の席に座っていればよかったと後悔する。
バスの中の人数はまばらで、流川を含めた8人程が椅子に座っていた。
窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めながら、 バスがバス停についた事を知る。
杖を使いながら歩いている白髪の男性と、制服を着ている学生が降りた。 乗ってくる者は居なかった。
誰もがそう思い、運転手がドアを閉めようとした時―…
「ちょっと待て!しめんな!乗るんだよ!」
馬鹿でかく乱暴な声が聞こえたかと思うと、 閉めかかったドアをむりやりこじ開け、 一人のガタイの良い男が乗り込んできた。
その男を見上げて、流川は眉を潜める。
他の乗客の目も、その頭の所為もあるのか視線が集まる。
金を入れた男も流川を見つけたらしい。 「ゲッ!?」と言いながら目が合った。
流石に両者、バスの中で言い合いなんてするつもりは無い。
そのまま花道は一番後ろまで歩いていき、 誰も座っていない最後尾の席の端に腰を下ろした。
何でこんなとこであんなヤツなんかに会わなきゃなんねーんだ。
等と自分の運の悪さをうらんでいた流川だが、 花道が離れた席に座りそれ程自分に支障のない事に気がついた。
先程と同じようにしている事は出来る。
あの男が乗り込んできたからといって自分が迷惑する訳でも無いのだ。
そう気がついて、また眠りが近い事を知った。
バスの中はタイヤが道路の上を滑る音だけが聞こえている。
バス停が近くなれば、アナウンスが車内に響いた。 それ以外の目立った音は無かった。
安心して眠りに着こうと決め込んだ流川の邪魔をしたのは、 またもやバスの乗客だった。
客が一人降りる。
それに比例して一人乗り込んできた男は、 まず一番後ろの席に座っている花道を見つけて目を丸くした。
「リョーちん!」
「おー!」
と返事をしながら金を入れて進んだリョータは、 前の席にもたれかかっている流川を見つけてまたも声をあげた。
「…うす」
そのままリョータは後ろの席へと足を進め、当然の様に花道の隣に座った。
この事態には、流川は怪訝そうな顔をした。
あの2人は同じ部活内でも仲が良い。 帰り道に何か一緒に食べに行くなんて事は良くある事だった。
途端にバスの中に2人の男の声が響きだす。
ぺちゃくちゃと話に花を咲かせているのだ。 うるさくて眠れたものじゃない。
イラついた流川は前の席の背を蹴るが、 それは大して意味のない行動に終わった。
だが後ろへ行ってまで注意する気にはなれなかった。 何しろそんな柄じゃない事は自分でもわかっていた。
とりあえず我慢しておこう。 そしてウォークマンを持ってくれば良かった。
うるさく耳に執着する声に悪態をつきながら、 流川はビルの陰で隠れてしまった日の光を恋しく思い、目を閉じた。
心地よい振動が椅子から体に伝わる。
先程邪魔くさかった花道とリョータの喋り声は、 バスが道路を走る音と一体化していた。
あぁ眠れる。
そう思った時、バスがバス停に着いた。 その衝撃で少し体が前かがみになる。
乗ってきたのはまた一人の男だった。
皮のジャケットを着てめんどくさげに金を入れて前を向いた男。
は、「あ」と声をあげた。
目が合った花道は、目を丸くしてぽつりと言った。
「…ミッチーだ」
「あ?あぁホントだ!」
…うんざりだ。
流川は前の椅子に頭を突っ伏した。
その黒髪を見ても気がつかなかったのだろうか、 三井はそのままスタスタと最後尾の椅子まで歩いていった。
先程までもはやバスのBGMとしてタイヤの音と一体化していた話し声は、
一人の男を加え、更にでかく、うるさく、楽しそうな笑い声を増やした。 先程よりもうるさくなったバスに、流川は
「ふーっ…」
とため息をつき、突っ伏していた頭をあげて背もたれに寄りかかる。
先輩、あれ流川ッスよ。 嘘?マジか?気づかなかった。 あのキツネはバスの中でも寝てやがるからな!
などという会話が耳に入らない様に、流川は窓の外をジッと見つめた。
そこは店が並ぶビル街で、 遊びに来ている若者やスーツを着たサラリーマン等、 様々な人々が歩いていた。
道を行く人々を何気なく一人一人見てみる。
と、その人の網目をかき分ける様に走っている人物が目についた。
その後ろを随分とでかく人目をひいている男も一緒に走っており…
随分奇妙な光景だ。
顔は遠くて良く見えない。その2人は大急ぎで横断歩道を渡った。
歩行者信号は2人がわたったとたんに赤に変わり、 バスがゆっくりと走り出す。
すぐ傍にある、バス停まで。
2人の男も、そのバス停まで走っていった。
乗客は2人降りた。乗ってきた者も2人だった。
乗ってきた2人と目があった最後尾に座っている3人から、次々と声があがる。
「あっ!!!」
「ゲッ!ゴリ!」
「木暮に赤木…お前ら一緒に乗ってきたのか?」
「何で湘北の問題児軍団がそろいにそろって乗ってるんだ!!」
気がつけば、バスに乗っている乗客全員、
自分のチームメンバーだった。


流川は大きくため息をついて、
眠る事を忘れてしまった瞼を無理やり閉じた。

 


 

 

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