その部屋は独特の静けさを持っていた。
花道が足を踏み入れると、フローリングの床はミシと小さく音をたてた。
途端に背筋がゾッとする。

寒い。

ストーブがあるのについていない。
つけていない、といった方が過言だろうか。
花道はその傍へ近寄って、ストーブの前にしゃがみこんだ。
あぁこれ壊れてたんだっけ。
いくら電源を押しても全く無反応なストーブを見て、
花道は後頭部をがしがしとかいた。
部屋は小奇麗に片付いていた。
物の少なさが、寒さをより感じさせるのかもしれない。
花道はテーブルの前に腰掛けて、あたりを見回した。
床の上にあるものといえば、必要最低限の家具と、
スポーツ雑誌2,3冊に黒いビデオが数個。
テーブルの上には、くしゃくしゃのコンビニの袋と、一つの携帯電話。
液晶画面が白く光っている。
銀色のデザインに、その色は良く映えていた。
それを視界に入れた花道は、目をそらしあえて無視した。
立ち上がりキッチンの方へ歩いてみるが、
そこも部屋の雰囲気となんら変わりはなかった。
男の一人暮らしの台所、というのは、
大体がインスタント食品の入れ物だとか、
食器が乱雑に放置されている所を想像するが、
ここのキッチンは寂しいくらいにきれいに片付いていた。
銀色のステンレスが光を反射する。
その下にある、白い扉の戸棚をあけてみるが、
やはりその中には何一つ残ってなかった。
これだけ片付いていて何も無いと、
まるでまだ誰も住んでいないモデルルームの様にみえる。
見学してる気分だな、と花道は少し笑いながら、白い冷蔵庫のドアを開けた。
明けた途端、ふわっと冷たい冷気が流れ出る。
目の前には何も無い。食品や材料は何も入っていなかった。
これくらいなら花道は予想できた。
これだけ周りが片付いていて
冷蔵庫だけがぎゅうぎゅうだと、かえって不気味だ。
ガランとした冷蔵庫の中には、冷蔵庫特有の機械的な臭いが漂っていた。
この臭いはあまり好きじゃないな、と思いながら、
扉の内側のスペースを見てみる。
「…あ?」
花道は一瞬目を丸くした。
ぎっしり物がつめられていた訳では無い。
見慣れない物が入っていた訳でも無い。

見逃すかと思った。

飲み物を置く横に細長いスペースに、
飲みかけのポカリスエットが入っていたのだ。
それをじっと見ていた花道だが、やがて手にとってまじまじと見てみる。
4分の一程度が残っていた。
ペットボトルの中で、半透明な液体がゆらゆら揺れている。
それを見た花道の顔に、やがて、フッと笑みがこぼれ落ちた。
ふたを空けてそれを飲み干す。
もとから量が少なかったせいで、全て飲みきるのにそう時間はかからなかった。

空になったペットボトルをテーブルの上に置いて、
花道は雑誌やビデオを一箇所にまとめ始めた。
これでよし、とでも言うかの様に、
満足げにまとめたビデオの上をパンパンと手で叩く。
そして立ち上がり、部屋の周りを見回した。
前に人が住んでいた様な面影は、全く見られない部屋。
本当にこのアパートのモデルルームの様だ。
凶器の様な鋭さを持っている寒さと静けさに、花道はかすかに目を細めた。
しばらくそこで何も無い部屋をながめていたが、
やがて動き出すとテーブルの上の携帯を手に取った。
そして、画面の左下にある小さなボタンを親指で押す。
白い画面が光るディスプレイには、名前と電話番号が一瞬で表示された。
そして、そのボタンの下にある、他のボタンより一回り大きいボタンを押した。
コール音が聞こえ始める。
携帯を耳に押し付けながら、花道は部屋の電気をパチッと消した。
相手が出るのを待ちながら、暗くなった部屋を見渡す。
その瞳は、名残惜しむ色と、懐かしさを思い出す様な色が見受けられた。
生き物の匂いが消えた部屋を後にして、ゆっくりとドアを開ける。

 


外は、しんしんと降る雪が積もった、美しい雪景色だった。

 

 

 

 

 

「あ、洋平?オレ。あのさ、オレしばらく家あけっから。
携帯も電源きっとくから連絡取れなくなると思うんだ。
え?あぁ、いや、気にすんな。多分すぐ分かるからよ。
じゃーな」

 


 

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