ジ ャ ム

 

苺が実家から大量に届いた。
その季節になったからだろうが、これはありすぎると思う。
彩子はダンボールの中のパックにつめられた、
所々ぴかぴか光る苺を見下ろした。
そうだ。ジャムでも作ろうか。
最近は仕事続きでそんな気を起こそうともしなかったのだけれど、
連休の真ん中の今日にタイミングよく苺が届いてくれたし、
今日作らなかったら多分次にジャムを作るのはずっと先になるだろう。
完全に作ることを決定した彩子は、
苺のへたをとろうとダンボールから1パック取り出した。
何グラムぐらいにしよう。一瞬悩んだ彩子は、
多いほうがいいかな、と思ってもう2パック取り出した。
ボールに水をいれて、そこに沢山の苺をざっと入れる。
へたを三角コーナーに入れながら、
彩子はあっとレモンがあったかどうかを思い出した。
へたが無くなった苺をボールに入れて、冷蔵庫をのぞいてみる。
あ、そうだ。おととい買っといたんだっけ。
彩子はキッチンに戻り、またへた取りに集中した。         

苺のへたを全て取りおえて、水の入った鍋にその苺を移す。
砂糖をふりかけて蓋をしめて、後は砂糖がとけるのを待つだけだ。
ふと彩子は、前にもジャムを作った覚えがある事を思い出した。
前は確か…そうだ、晴子ちゃんが苺をわけてくれて、それで一緒に作る事になったんだ。
あたしもその時あまり苺ジャムなんて作りなれてなくって、
晴子ちゃんも初めてみたいで、かなり悪戦苦闘した事を覚えている。
それでも、味はそれなりに良かった。

「何か思った程多くできたわね。瓶が5つも」
「誰かにおすそ分けしましょうか?」
「あ、それいいわ。じゃあ部活の皆にでも」
「でも5人分しか…」
「別に全員にあげなくてもいいんじゃない?じゃああたしはリョータにでもくれてやろうかなー」
「あ、じゃあ桜木君にもあげよう」
「そーねぇ、桜木花道きっと喜ぶでしょうね。それなら晴子ちゃん、流川にはあげてやらないの?」
「えっ!?で、でも流川君絶対受け取ってくれないと思うし…」
「大丈夫よー。受け取ってくれなかったらあたしが無理やりおしつけるから」
「え、でも、ホントいいですよ!そんな無理やり…!」
「あんな無神経男に気なんて使わなくて平気よ。
でも流川にもあげるとなると、三井先輩にもあげた方が無難ね」


その後の渡したときの特に覚えていることは、
予想通りもの凄く喜んでいた桜木花道と、
意外にすんなり受け取ってくれた流川。
三井さんもまんざらじゃないみたいで、
リョータも何か涙目になりながら喜んで受け取ってくれていた。
確かそれで、1本残ったんだっけ。
赤木先輩にあげるのといっても、
その妹から苺をもらったわけだし、きっと先輩も食べ飽きてるだろう。

彩子はフタを開け水気が出ているのを確認してから、
所々に浮かぶ白いアクを取り除く事に専念した。
その鍋を火からおろして、棚からひっぱりだしてきたミンサーでつぶす。
またガスコンロに戻した鍋を中火にかけてから、冷蔵庫からレモンを取り出した。
つま先だちして棚の奥からレモン汁をしぼりとる物を取りだして、
そのでっぱった部分に半分に切ったレモンを押し付けた。
晴子ちゃんこれ面白がってやってたなー。
思い出して微笑んでから、しぼりとったレモン汁をスプーンですくい、大さじ1程鍋にいれた。
足元の扉をひらいて木製のへらを取り出した。
後はとろりとするまでかき混ぜるだけだ。

かき混ぜながら彩子は、先程の続きを思い出していた。
確か、1本残った瓶をどうするか悩んでいた晴子ちゃんとあたしに、
誰かは忘れたけれど問題児軍団の中の男が
オレがパン買ってくるから皆でくおう、と持ちかけたんだった。
「あーそれいー!」「じゃあよろしくね買い物」「よーしいってくんぞー!」
買ってきてくれたその後のことは、凄く楽しかった事を覚えている。
8枚切りを二袋買ってきたんだけど、あっという間にそのパンはなくなってしまった。
「桜木花道食べすぎ!晴子ちゃん全然食べれてないじゃない!」
「うぁっ!すみません晴子さん!」
「ううんいいのよ私は。桜木君どんどん食べて」
「さすが晴子さんは優しいなぁ…ってあぁミッチーそのパンオレが塗ったヤツだ!」
「いーじゃねーか、オレまだ3枚しか食ってねーんだ」
「それがどーした!オレなんかまだ5枚…いでっ!」
「どあほうオレのとってんじゃねー」

その時のジャムの匂いや他の部員の笑い声が鮮明に思い出されて、
思わず彩子は手でかき混ぜていた木へらの動きを止めてしまった。
毎日笑い声が絶えない体育館。
衝突するときもあったけれど、
それは後々より絆を深くする出来事だったように思う。
彩子はぐんぐん引き戻される様に、あの頃を思い出した。

気が付けばもうジャムをかき混ぜる感触はとろとろになっていて、
彩子はあわててガスコンロの火を消した。
ずっと物置にしまわれていた瓶を取り出して、
大雑把に水を入れて中身を洗う。
そうだ。これはバスケ部の皆にあげよう。もちろん晴子ちゃんにも。
できれば手渡しがいいけれど、向こうもこっちもそんな暇はないかもしれない。
電話越しでもいい。久しぶりにみんなの声がききたい。
彩子はジャムを瓶に入れながら、
桜木花道や三井先輩、リョータの喜ぶ声を想像して、また頬が緩んだ。

 

 

人差し指で味見した苺ジャムは、少し甘く、あの頃と同じ味がした。

 


 

 

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