肌を刺す寒さに目が覚めた。
重たい瞼を開けて顔をあげる。
そこは自分の家のリビングルームで、流川はテーブルの上に突っ伏して寝ていた。
周りは電気をつけていないので薄暗く、他の家族は皆出かけている様子だった。
流川は頭をガシガシとかきながら、薄暗い部屋の中を見渡した。
ストーブもいつのまにか消えている。
「ふーっ…」
息を吐いて、一瞬驚いた。
吐いた息が白かったからだ。
そんなに寒かったのか。
流川はのろのろと立ち上がって、ストーブの電源を入れた。
電源を入れてもすぐ暖かくなる訳ではないので、
暖かくなるまで待っていようと、そこにしゃがみこむ。
すると、外の景色が変わってる事に気づいた。
窓の傍により、目を見開く。
一面真っ白だった。真っ白な雪景色。
つもった雪がキラキラと光を放っている。
そういえば寝る前から降ってた気がする。
寝てる間にこんなに積もったのか。
しばらく流川は、そこで景色に見入っていた。
向こうの方で、男がせっせと道路の上で雪かきをしている。
その反対側では子供達が楽しそうに雪だるまを作っていた。
白い道の上を、苦労しながら歩いている人影が小さく見える。
灰色に染まっている空と真っ白い雪のコントラストが、また冬らしかった。
何の変化も見られない景色だけれど、流川はその場から動かずに居た。
一面に広がる白は、今まで眠りについていた自分の目を徐々に覚醒させていく。
ふと、窓の外から救急車のサイレンの音が耳に入り、
どこから鳴っているのかと流川は建物に隠れている道路を見ようとした。
サイレンの嫌な音を聞いて妙な寒気がした。
その瞬間だった。
遠くで鳴るサイレンの音は、家の電話のコール音にかきけされた。
何となく取るのがめんどくさかった流川は、無視しようと電話に背を向ける。
だがコール音はやむ気配が無い。何度も何度もしつこくなり続けている。
流川は振り返り、あまりに鳴り止まない電話をジッと見つめた。
何だか自分が取るまで待ってるような感じがしてきたので、
流川はめんどくさがりながらも、その受話器を取った。
「…はい」
まず最初に聞こえてきたのはガヤガヤとした雑音。
『流川っ!?』
突然耳に入ってきた大声に、今だ眠気から冷め切っていなかった頭が一気に起きる。
何度か瞬きをしてから「うす」と小さく返事をする。
すると、返事を言い終わらない内に、またその声はキンキンと電話から響いた。
妙に慌しい大きな声。
シーンとした部屋に居た為か、その声は自分の耳になかなか慣れない。
ただ、知っている人物が喋っているから耳を傾けていただけで。
それは聞き覚えのある、彩子の声だった。
『…に……ちゃって……たのよ、聞いてる流川っ!?』
何とか聞き取れてはいる状態だった流川は、また「うす」とボソッと返事を返した。
ペラペラと早口で次々と出てくる言葉は、
あまり流川の生活にはかかわりの無い様なものばかりだ。
病院だの事故だの救急車だの…
相手がそれだけ慌てていても、
いまだ流川には、そちらがどういう状況なのかつかめない。
急いでいる割には説明ばかりしていて、
事の重大さがつかめない流川は、ある一語を聞き逃していた。
この電話が切れたらゆっくり眠ろうと、目をこすりながら決める。
だがそれは、
自分が問いかけた質問によって果たすことができなくなってしまった。
いやに冷静な自分の心臓が、今までと変わりなく鼓動を続ける。
「先輩」
「…だから、流川もくるのよここにっ!いい?!」
「先輩」
「それじゃ待ってるから…あ、なに?」
あぁ昼寝できねぇや、と思いながら、
先程からずっと疑問に思っていた事を言葉にする。
「誰が」
「…え?」
冷静すぎる自分の対応がその場にそぐわなかったなんて、流川は知らない。
自分の鼓動が程よいリズムで打っていた事を覚えている。
「誰がそうなったんすか」
しばらく電話の向こうは雑音と人の話し声だけになった。
あんたそんな大事な事聞いてなかったのっ!?
その後に聞こえてきた名前に、流川の鼓動は、一瞬だが、震えた。
伝えるだけ伝えたのだろうか、彩子は流川の疑問符を残しガチャッと電話を切った。
ツーツーツーと無機質な電子音が耳に流れ込む。
それからまた、前と同じシーンとした静けさが部屋に戻った。
「………」
電話を握り締め、そこに立ちすくむ。
やはり、今の彩子の電話は、自分の日常生活とは関わりの無い言葉ばかりだったのだ。
病院 事故 救急車
突然そんな言葉を次々と言われ、流川の頭は混乱し始めていた。
だけどグチャグチャとした言葉の渦の中、
聞き取り理解する事がやっとな言葉の渦の中
一つだけはっきりと明確なものがあった。
病院
『…に居るんだけど』
事故
『…にあっちゃったのよ…』
救急車
『…で運ばれて』
桜木花道
『が』
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オレは勢い良く目を開いた。
肌を刺す様な寒さなのに、目覚めた体はもの凄く汗をかいていた。
おまけに呼吸が乱れてて鼓動が速い。寒く感じるのに体は熱かった。
何の夢を見たのかは全く覚えてないけど、想像ができない。
オレは薄暗いリビングルームに一人で突っ伏して寝ていた。
周りを見渡すと、他の家族は出かけた様だった。
「…………」
薄暗い部屋の中を見渡して、変な違和感に気がつき身震いする。
ゆっくりともう一度、テーブル周辺とテーブルの上を見てみる。
だけどその違和感には気づけないままで、後味の悪さを残すだけだった。
「…はっ」
何気なく息を吐く。
案の定、白かった。
「…案の定?」
ストーブがいつのまにか消えてるのに気づいて、立ち上がり電源を押す。
ストーブの火がつくまでそこで立ちながら待っていると、
ふいに外の景色が変わってるのに気が付いた。
極普通の、自然の流れの様に窓に寄る。
そして景色を見た途端、オレは目を見開いた。
一面雪景色だった。
積もりに積もった雪がキラキラと所々光を放っている。
久しぶりに見た雪景色は、思っていたよりもずっと綺麗で、オレは魅了させられた。
遠くで、男が一人で大変そうに雪かきをしていた。
その反対側では、子供達が雪だるまを作ってる。
白い道の上を、苦労しながら歩いている人影が小さく見えた時…
?
こんな光景、どっかで見た様な…?
まさか。久しぶりの大雪なのに。見覚えなんてある訳無い。
きっと気のせいだ。
ふと耳をそばだてると、窓の外から小さく救急車のサイレンが聞こえてきた。
どこら辺を走ってるのかと思って、寒そうな空気が漂う外をつま先立って見ようとする。
建物と建物の間を一瞬にして過ぎ去ってしまった救急車を見て、
またさっきの違和感がよみがえってきた。
遠くなっていくサイレンの音と重なる様にして、
ふいに電話のコール音が鳴った。
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