赤い皮のボールは、驚く程自分の手になじんだ。
円状の表面には、カーブしている黒い線が何本か入っている。
片手で持つと少し重たい。
自分の小さな手では、片手でボールをつかむ事なんて出来やしなかった。
バレーボールの白いアレよりも、一回りか二回り大きかった。
地面の砂に力をつけて、それを落としてみる。
それは当然の事の様にまた自分の手の平に返ってきた。
ボールが落ちた所の砂は、 落ちた証拠を示すかの様に1箇所だけへこんでいる。

…面白い。

どういう性質で跳ね返る事ができるのか、全く考えもしなかった。
地面に落とせば跳ね返ってくる。
何度と無く自分の手に戻ってくる。
その事実が面白くて嬉しくて仕方無かった。
ただ単純に、その当たり前の事だけを
当たり前の事として受け止め繰り返した。
目の前にはそびえたつようなリング。
白いネットが風に揺らされ、少しだけなびいていた。
赤いリングが太陽の光に照らされツヤツヤと光っている。
入れてみろ、とののしっている様にも見えたし、
そう誘っている様にも見えた。
ボールの両側に手の平をつき、胸の前で力を入れた。
何の迷いもなく、そのまま手を伸ばす。
ボールが手から離れていく感触を知った。
鮮やかに飛んでいくボールをジッと見つめる。
世界がスローモーションになったのかと思った。
バックボードにぶつかり跳ね返る所まで鮮やかで綺麗だ。
少し日が沈みかけた夕焼け色の空に、
それは黒い影となり映えていて、思わず目を細めてしまった。
転がるボールを見つめて、我に返り走って拾いに行く。
ゆっくりゆっくりとそのまま歩いて、ゴールの正面に立った。
なぜか自分には、どうすればゴールに入るか分かっている気がした。
シュートフォームという言葉さえ知らなかったはずなのに。
ゴールに吸い込まれるボールを見たかった執念だろうか。
入る気がした。
静かにボールをかかえ、自分の頭の上に持ってくる。
そうすればもっと高く投げられる気がした。
こんな事いつ覚えたっけ?
この感触に触れるだけで、体中の力と気力がみなぎってくる気がする。
こんな感情は初めてだった。

        

        

ボールは回転しながらゴールへと近づいていく。
短く高い弧を描きながら、それはそれは美しく。
ボールの動きなんて速くてあっという間に過ぎてしまうはずなのに、
なぜか今だけはその動きがスローモーションに見えた。
ゆっくりゆっくり。
確実にある一点を目指して。
目を見張るものがあった。




スパッ




瞬間
懸けるものが見つかった気がして
目を見開いて。




純粋にこの音が好きだと思った。
これ程の気持ち良さを味わったのは初めてだと思った。



揺れる白いネットが、
地面に跳ね返るそのボールが、
手にとれば分かるその感触が、
初めて知ったその感覚が、








大好きだと思った。

 

 


 

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