自 分 の 場 所

 

砂浜に寝転んでみる。この感触にももう飽きた。
晴子さんから手紙がちょくちょく来るけれど、
それを読んだ日には必ずボールに触れたくなる。
少しだけでもいい。一瞬で終わってもいい。
砂浜の感触なんかよりもずっと欲しいものがあるのに。
一定の運動を繰り返す波も見飽きたけれど、波の冷たさは心地よかった。
全てがどうでも良く感じて、
ザッザッと砂の上を移動して、もっと前に座る位置をかえる。
一回引っ込んだ波は、またすぐに押し寄せてきた。
腰までが波につかる。
「つめてー」と呟いて、ひいていった波を見つめた。
もうすぐ、もうすぐだ。
自分に言い聞かせてみれば案外単純に事は運ぶ。
辛い時もあるがそれを思い出せば乗り越えられた。
自分にはまだ、やるべきことがある。
それがあるんだからまだ良い方なのだと思う。
きっとすぐに、あの場所に帰れる。
自分には帰る場所、いるべき場所がある。


このテンサイがいないとあいつら何かと大変だろーしな。



一番最近の試合を思い出してみる。
一コマ一コマが擦り切れたテープの様に、だけど鮮やかに、頭に蘇ってくる。
あの時の体育館の照明、館内に鳴り響くバッシュの音、
そこで動く全員が荒い息で、けれど目はしっかり開かれていて。


体中に思い出された熱がいきわたり、力がみなぎってきた。
あの瞬間を思い出せば、こんな重たい気持ち何でもないのだ。
波の冷たさだって砂浜の飽きた感触だってどうでも良くなる。
もうすぐ。
きっともうすぐ。
あの場所に帰れるんだ。
待っている者の為に、居るべき場所に帰れる。
すぐに戻れる。
戻ってやる。


「うっし」
立ち上がり足の付け根あたりまで波に濡れたジーンズから、砂を払いおとす。
雲間から光が射し花道を照らして、
自分が残した砂浜の足跡はあえてたどらずに、花道は病院へと足を急踏み出した。

 


 

久しぶりの快晴だ。
洋平はひとり屋上から空を見上げた。
自分の親友がこの学校に姿を見せなくなって何週間か過ぎた。
それでも世界が終わる訳ではなく学校が潰れる訳でもなく、 ただ普通に日常は流れる。
その速さに変化があったのではないが、 とりあえず前よりも何か足りない様な感じはしていた。
ふぁーっと煙を口から吐き出した。
その灰色の煙は空の青さにひどく不似合いで、
まるで白い病院にいる赤い花道の様だと思った。
あぁ。
そこで気付く。
やっぱりあそこはあいつの居る場所じゃないんだなぁ、と。
自分に合わない場所に無理にいる必要はない。それは誰にでもわかる事だ。
けれど花道はいなければならないからいるのであって、
自分の意思では無いんだから仕方ないのだ。
……。
空を見上げてまた気付いた。
花道は退屈してんだろーなぁ、と。
ちょくちょくお見舞いに行ってみても、
自分の親友はちっとも落ち込んでいないし、
前とさして変わった所が見つからない程だ。
あんな病弱そうな部屋に、いつも大声で笑う花道は似合わないのだ。
同情なんてするつもりはないしおそらく花道だって願っていないのだろう。
あいつが願ってる事は、ただ一つだ。
あの単純な男の考えそうな事なんてすぐにわかる。

あいつが戻りたい場所は、あの場所。

それ以外にないはずだ。



下校を告げるチャイムが鳴り響き、
洋平は最後のタバコを足で踏みつけそれを拾った。
また花道んとこ行ってみよう。
にぎやかな先輩や悪友を連れて。
そこで一言言うつもりだ。
「待ってるからな」って。

 


 

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